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BUSINESS · 経営分析

ROEをデュポン分解する:「なぜ利益が出ているか」まで掘り下げる経営分析

ROE12%の企業が2社あるとき、どちらが「優れた経営」をしているかはROEだけでは分からない。デュポン分解で3つの要素に分けると、まったく異なる企業像が浮かび上がる。

あっつん
あっつん
IT engineer × 投資家 · 2026.03.05 · 10 min read
ROEをデュポン分解する:「なぜ利益が出ているか」まで掘り下げる経営分析

ROEが高い企業は優良企業だ──という理解は半分正しく、半分危うい。

ROE(自己資本利益率)は「株主から預かったお金をどれだけ効率よく使って利益を生んだか」を示す指標で、Warren Buffettが重視することで有名だ。しかし、同じROE12%でも、その中身はまったく異なることがある。デュポン分解はその「中身」を可視化する手法だ。

デュポン分解とは

デュポン分解(DuPont Analysis)は、ROEを3つの要素の掛け算に分解する。

ROE = ①純利益率 × ②総資産回転率 × ③財務レバレッジ

(当期純利益 ÷ 売上高)×(売上高 ÷ 総資産)×(総資産 ÷ 自己資本)

それぞれの意味はこうだ。

要素 意味
①純利益率 当期純利益 ÷ 売上高 売上から最終的に何%利益として残るか(収益性)
②総資産回転率 売上高 ÷ 総資産 持っている資産を使って何倍の売上を生んでいるか(効率性)
③財務レバレッジ 総資産 ÷ 自己資本 借入を使ってどれだけ資産を膨らませているか(安全性の裏返し)

この3つを掛け合わせると、必ずROEになる。

同じROEでもまったく違う2社

具体例で比較してみる。A社・B社ともにROEは約12%だが、内訳がまったく異なる。

指標 A社(メーカー) B社(商社)
純利益率 8.0% 2.5%
総資産回転率 0.8回 2.1回
財務レバレッジ 1.9倍 2.3倍
ROE ≒12.2% ≒12.1%
  • A社は高マージンで稼いでいる。売上は少なくても、製品の付加価値が高い
  • B社は薄利多売で資産をぐるぐる回している。マージンは低いが回転が速い

どちらが「優れているか」は一概には言えない。業界特性や成長戦略によって変わる。しかしデュポン分解なしでは、この違いは見えない。

3要素それぞれの改善策

①純利益率を上げるには

  • 高付加価値製品・サービスへの転換
  • コスト削減(原価率・販管費率の低下)
  • 価格決定力の強化(ブランド・特許・スイッチングコスト)

純利益率は「差別化戦略」の成果が現れる指標だ。競合が真似できないポジションを持つ企業は、ここが高い。

②総資産回転率を上げるには

  • 不要資産の売却(土地・設備の最適化)
  • 在庫管理の改善(回転日数の短縮)
  • 売掛金回収の効率化(回収サイクルの短縮)

総資産回転率は「オペレーション効率」の指標だ。同じ資産でいかに多く売れるかを問われる。

③財務レバレッジについて

財務レバレッジが高いほどROEは上がるが、これは借入で資産を膨らませているだけでもある。

  • レバレッジが高い → 利子の支払い増・景気悪化時のリスク増
  • 自己資本比率が低い企業のROEは、「稼ぐ力」ではなく「借入の多さ」で高くなっている可能性がある

このため、ROEを見るときは必ず自己資本比率と合わせて確認するのが正しい読み方だ。

実際の企業でやってみる:三菱商事

保有銘柄の三菱商事(2025年3月期)でデュポン分解してみる(概算)。

指標 数値
当期純利益 約1.1兆円
売上高(収益) 約21兆円
総資産 約24兆円
自己資本 約8.5兆円

計算すると:

  • 純利益率:1.1 ÷ 21 ≒ 5.2%
  • 総資産回転率:21 ÷ 24 ≒ 0.88回
  • 財務レバレッジ:24 ÷ 8.5 ≒ 2.8倍
  • ROE:5.2% × 0.88 × 2.8 ≒ 12.8%

総合商社らしく、純利益率は高くないが、巨大な資産を効率的に回しつつ、適度なレバレッジでROEを底上げしている構造だ。

診断士2次試験との関係

中小企業診断士の2次試験(事例IV)では、与えられた財務データからROEを分析する問題が頻出だ。

採点者に評価される答案のポイントは「ROEが〜%です」で終わらず、「純利益率が低い原因は〇〇であり、これを改善するためには〜という施策が有効」まで書くことだ。デュポン分解は、その「分析→施策」の流れを作る骨格になる。

業種別:デュポン指標の「当たり前の水準」

デュポン分解の3要素は、業種によって標準的な水準がまったく異なる。業種を無視して比較すると「純利益率が低い=ダメな企業」という誤解につながる。代表的な業種の傾向を押さえておこう。

業種 純利益率 総資産回転率 レバレッジ 稼ぎ方
製薬・化粧品 高(15〜25%) 低(0.3〜0.5回) 低(1.5〜2倍) 高付加価値・低回転
食品スーパー 低(1〜3%) 高(1.5〜2.5回) 中(2〜3倍) 薄利多売・高回転
総合商社 低〜中(3〜8%) 中(0.7〜1.2回) 中高(2.5〜3倍) バランス型
SaaS・ITサービス 高(15〜30%) 中(0.5〜1.0回) 低(1.5〜2倍) ソフトウェアマージン
銀行 特殊 極低(0.02〜0.1回) 極高(10〜15倍) レバレッジ構造が前提

銀行のレバレッジが異常に高く見えるのは、「預金(他人の資金)を運用してスプレッドを稼ぐ」ビジネスモデルのためだ。一般事業会社と同じ感覚でレバレッジを評価すると誤る。業種特性を踏まえた上で数字を読むのが、デュポン分解を使いこなすコツだ。

スクリーニングへの活用

証券会社のスクリーナーでデュポン分解の各要素をフィルタリングすれば、「実力でROEを稼いでいる企業」に絞り込める。私が実際に使っている手順を紹介する。

ステップ1:自己資本比率30%以上を前提条件に

財務レバレッジが高すぎる企業は除外する。借入で膨らませたROEではなく、事業の実力で稼いでいる企業に絞る。

ステップ2:純利益率を3期平均で確認

単年度の特別利益でROEが跳ね上がっている企業は除外する。3期以上にわたって安定した利益率があるかを確認する。

ステップ3:総資産回転率のトレンドを見る

毎年回転率が低下している企業は、資産が積み上がる一方で売上が伸びていないサインかもしれない。「何を積み上げているか」を有報で確認する。

このスクリーニングを日本株全体に当てはめると、ROEが高くても「レバレッジ依存・単発特益・回転率低下中」の企業が相当数ある。ROEの数字だけを見ていると気づかない点だ。

デュポン分析の限界:見えないものがある

万能に見えるデュポン分析にも死角がある。見えないものを把握しておくことが重要だ。

① 将来の収益力は見えない

デュポン分解は過去の財務データを使う。今期の大型R&D投資や新事業への先行投資が3年後のROE改善につながるかどうかは、事業の文脈を別途読む必要がある。

② 会計方針の差異に引っかかる

減価償却の方法・のれん処理・特別損益の扱いによって、同じ事業でも純利益率は変わる。フリーキャッシュフローと合わせて確認することで、会計上の操作に引っかかるリスクを下げられる。

③ 無形資産の価値が反映されない

SaaSやプラットフォーム企業は、顧客データ・ブランド・エンジニア組織といった貸借対照表に載らない価値が競争優位の源泉になっていることが多い。こういった企業は「総資産回転率が低い=非効率」ではなく、「オンバランスの資産だけで価値を語れない」という話だ。

診断士の2次試験でも、指標の計算よりも「その数値が意味することと限界」を説明できるかが問われる。デュポン分解も同じで、数字を出すことがゴールではなく、「なぜその数字になっているか」と「何が見えていないか」を合わせて語れることが本質的な能力だ。

まとめ

ROEは「一枚の写真」だ。高いか低いかは分かるが、なぜそうなっているかは写真だけでは読み取れない。デュポン分解は、その写真を3つの断面から分解する作業だ。

  • 純利益率:稼ぐ力(差別化)
  • 総資産回転率:使う力(効率)
  • 財務レバレッジ:膨らます力(リスク)

この3軸で見ると、同じROEの企業でも「どのドライバーで稼いでいるか」が見えてくる。投資判断の精度が、確実に一段上がる。

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